悪魔のような歯並び

私は中学卒業まで常にクラスで一番背が低く、体育が苦手で、鉄棒や跳び箱、冷たいプールなどが怖かった。またひどい出っ歯でかみ合わせが悪く、胃腸も弱かった。しばらく寝小便もしていて、他人に言えない秘密だった。前橋の北、大胡というところに整体の良い先生がいるというので、母に連れられて行ったことがある。先生は体力をつけるのに、縄跳びをすることと焼きりんごを食べるとよいと言うので、母はオーブンを買い何度かりんごを焼いて食べさせたが、結局私の寝小便は6年生まで続いた。また、気が小さいのに短気な性格が影響してか、中学の頃トイレで心臓がキューと締め付けられるようなことがあり、病院へ行くと心臓弁膜症のため心臓肥大であると診断された。
出っ歯は外から見えるので大きなコンプレックスだった。歯が出ていると口がとがって見える。加えて頭の形や髪の生え方、鼻の様子からして、小学校のころのあだ名は河童だった。両親とも出っ歯なので、私がそうなのはやむを得ないところだが、大学生となり下宿をしていた私がしばらくぶりに帰省し、両親を見るとその出っ歯が入れ歯か何かによって、突如改善されていた。そして何事もなかったように二人でこたつにあたっている姿を見て、拍子抜けというか自分だけが取り残された気がした。その後私も谷中の小野沢歯科で前歯を治療した際にこれを目立たぬよう修正してもらい、出っ歯には違いないのだが、これでやっと長年のコンプレックスを払拭できる気がした。


私は子どものころ今以上になっておらず、よく虫歯になりその痛みに苦しんだ。母親に歯医者に連れて行かれるのだが、これがまた痛かった。当時は虫歯の治療に麻酔など打ってはくれず、私は荒井注に似た歯科医に治療を受けながら、先生を足でけっていたのを思い出す。ある日私は、いっそのこと入れ歯になればその苦しみと恐怖から永遠に解放されると考えた。そのためには、まず歯を全部虫歯にしなければならない。そこでチューブ入りのチョコを歯に塗って寝てみたが、いっそう痛む結果となったのである。
最近新聞の広告に「子どもの歯並びは親の責任です!」というのがあって、ドキッとさせられた。子どもの頃から私の歯並びはひどく出っ歯に加えて、下は前列の一本が両隣の歯に押されて向きが変わり、ついには完全に90度回転してしまい、口内にもあたるようになっていた。母はそれを矯正するか私に尋ねたと思う。しかし歯医者でまた痛い治療をされることを恐れた私は見た目などどうでもよく、それを拒否した。思春期になってようやく見た目を気にするようになった私は、悩んだあげく思い切って自分で抜くことにした。ベッドの柵の上にたこ糸か何かを結び、長さを決めその端を抜こうとしている歯にくくりつけた。そして柵の上に後ろ向きにしゃがむと、痛いのは一瞬とばかりに背泳ぎのスタートよろしく背中からベッドに落ちると、とてつもない痛みが襲い、出血もしたが歯は抜けるものではなかった。その後、例の歯医者に行って抜いてもらったが、向きが変わっていたとはいえ健康な歯を抜いてよかったのだろうか。
今5歳の上の娘はまだ乳歯だが、ちょうど私が抜いてもらった場所の歯がないのはどうしたことだろう。