裏の山、裏の川

家の裏手に丸石とコンクリートで護岸された幅2~3mの水路があった。生活排水も流れ込み汚れていたが、私は「裏の川で遊んでくる」と言っては、ここで魚やザリガニなどを捕まえて遊んだ。トノサマガエルやオタマジャクシなんかはたやすく網に入ったが、こんなものは取るに足らぬものだった。
ザリガニを見つけるとその後ろに網を用意し、それが飛び跳ねると網に重みを感じた。道の上から大きなドジョウがいるのを見つけ網を取りに家まで走って帰ったこともあった。雨が降った後の水かさの増した川を橋の上からのぞいていて頭から川の中へ落ちてしまったこともある。ある日、こんなどぶ川では見たことのない大きな魚を見つけた。私がどうしたらいいかわからず緊張で固まっている間に、それは橋の下の暗がりへゆっくりと泳いで行ってしまった。

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数軒先の空き地に残土が山積みされているところがあって、ここが私たちのいう「裏の山」だった。私はここで日がな一日友達と粘土玉を作り、ピカピカに光らせたりした。この空地には廃材といっしょに冷蔵庫なんかも捨ててあって、アマガエルをつかまえてはその中に放り込んだことがあった。数日して開けてみると皆干からびて死んでいた。他にも残酷なことをした。これは私の家の庭だったが、近所の同い年の子と小さなかたつむりを集めて遊んでいたが、それを二人で山分けする段になって「こんなの要らない。」となって、突然二人して玄関先のコンクリートのたたきでそれらを全部踏み潰してしまった。

ある日、「裏の山」で近所の男の子たちをふたつに分けての戦争があり、それぞれの基地の中で泥だんごを作っては投げ合った。今だったら大人が止めさせるか安全に配慮してゲーム化するかも知れないが、この時は遊びという引いたところはなく、まさに戦争で私は大変興奮し基地の中で泥だんごを作り、年長者に補給したりした。私たちのグループは私の兄が大将で、相手の大将は名うて強い人だった。だんだん接近戦となり、ついには兄と相手の大将が互いの髪の毛をつかみあってけんかになった。もう40年も前のことだが、今でも二人の息づかいが聞こえるようだ。