シーモンキー

38歳の時、私は東京谷中から伊豆の山中に移住した。まことにここは虫好きにはたまらないところで、少し苦手の私でさえ図鑑でしか見たことがなかったゾウムシやナナフシ、玉虫なんかを生で見て喜んだ。ある夏の夜、カブトムシをそのまま小さくしたような1㎝に満たない虫が部屋に飛び込んできた。頭の上にはかわいい角があり、とてもチャーミングだ。この夜はこの連中の夜だったかして、探してみると部屋の中に何匹もおり、角のないのはメスだろう。私は新発見ではないかと思うと同時に、商売になるのではと考えた。しかし結局、これはふんころがしであることが判明し、糞を転がしている連中など売れるはずもなく、またかわいくもなくなった。

子どものころ近所の田んぼに水がはられるようになると、ドジョウやオタマジャクシに混じって不思議な生き物たちが見られた。ひとつはカブトガニそっくりでいて1~2㎝ほどの小さいもので、この時も新発見ではないかと思った。もちろん広く世間に知られているもので、確かカブトエビとかいう名前ではなかったかと思う。
その頃、デパートでシーモンキーというパッケージを買った。粉を水に溶かすと生き物が現れるというふれこみで、箱にはひれや水かきをつけ、うろこに被われたヒトのような生き物が描かれている。下半身は魚だったろうか。これはまさに自宅で半魚人を飼えるということではないか!私が欲しかったのはこういうものなのだ!私はさっそく説明書に従って粉を水に溶かし大いに期待をして数日待ったが、それらしいものは現れない。そんなはずはないとコップの中をなおも捜すと何やら水あかのようなものが動いている。数日するとそれは近くの田んぼで立ち泳ぎをしているエビに似たやつになった。