おはらい
1995年、京都で行われた国際インパクトアートフェスティバルに出品し、そのオープニングパーティーか何かに参加した時のことだ。初対面の3~4人の出品作家とテーブルを囲み、互いに自己紹介していたところ、そのうちの一人の女性が、四国で代々伝わるお祓いの家系で、彼女も後を継いでいるということだった。
私はお祓いについて無知だったが、彼女の自然な姿と話し方には好感が持てた。彼女は手相も見るというので、試みにひとり男の手相を見てもらおうということになった。彼女は男の手をとり、静に見ると、「あなたは二人の父親に助けられているようです。」と言った。彼の表情が真剣になるのがわかった。どうやら、これは彼の核心だったのである。
話は群馬大学時代に戻るが、ある晩私が友人の江島君の下宿を訪ねていると江島君に電話がかかってきた。電話に出た江島君はあまり驚いた風もなく「へーすごいねー」などと答えている。聞けば江島君が当時付き合っていた彼女からの電話で、テレビで超能力者が視聴者に向かって念を送り視聴者がスプーンを曲げるという番組をやっていて、それを試した彼女が本当にスプーンが曲がったと江島君に電話してきたのだった。元来私はこの手の話については懐疑的だったが、後に江島君と結婚することになる有子さんは誠実な人なので、以来私はこの種の話を否定できないでいた。そう言えば私も台東区に勤めていたころ、一度占いをしてもらったことがある。浅草で職場の飲み会があって、酔っぱらった私は国際通りを同僚らと歩いていた。女の占い師はその歩道に椅子と机を置き商売していた。姓名判断というやつか、私は自分の名前と生年月日をその占い師に告げると彼女は手帳を繰るなどした後、「泥棒には気を付けなよ。火事を出さないようにしなよ。自転車には鍵をかけなよ。健康には気を付けなよ。酒を飲み過ぎてはだめだよ。」などとしごく当たり前のことを言ったが、まるで母のような優しい語りかけに、私はよほど心がしおれていたのか、ぼろぼろ涙を流して泣いてしまい一緒にいた堀内君らを心配させた。そして彼女から先ほどの注意点が手書きされたメモをもらうと、見料をだいぶ奮発したのである。
さて京都でのパーティーの場面に戻ると、次に私が手相を見てもらうことになった。先ほどの男の核心を言い当てた人だ。私は自分の他人に言えない恥ずべき性癖も見透かされてしまうのかと思い、緊張した。お祓いの人は私の手を眺めると落ち着いた口調でこう言った。「あなたは商売をやったら上手く行くのではないでしょうか。」私はさもありなんと一人納得しつつも、絵画を出品している者としてさみしい気もした。
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